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「バイクの後ろに乗せて」と言われて意気揚々と出発したものの、30分もしないうちに「お尻が痛い」「もう疲れた」と不機嫌になられてしまった経験はありませんか? あるいは、大切な人を乗せたいけれど、快適に過ごしてもらえるか不安で躊躇している方もいるかもしれません。実は、バイクのタンデムシートは構造上、どうしてもお尻への負担や疲労が溜まりやすい場所です。しかし、適切な「装備」と、ライダーのちょっとした「運転のコツ」があれば、その苦痛は劇的に解消できるのです。
この記事では、同乗者を「痛み」と「恐怖」から守るためのクッションやバックレストの選び方から、立ちゴケを防ぐ乗り降りの手順、そして法律上のルールまで、快適なタンデムツーリングを実現するための3つの重要ポイント(装備・技術・法律)を中心に徹底解説します。
この記事を読むと分かること
- 同乗者が「痛い」と訴える原因を解消する、ゲルザブやバックレストなどの快適装備の選び方
- 立ちゴケリスクをゼロにするための、安全確実な乗り降りの手順と合図
- 「ガックン」とならないブレーキ操作やシフトチェンジなど、パッセンジャーを疲れさせない運転技術
- 高速道路での二人乗り条件(年齢・期間)や首都高の禁止区間など、知っておくべき法的ルール
「タンデムシートなんて、ただ座っているだけでしょ?」と思っていませんか? 実はパッセンジャーは、ライダー以上に過酷な環境に耐えています。この記事を読めば、そんな同乗者の負担を「ゼロ」に近づける方法がわかり、次回のツーリングでは「楽しかった!また乗りたい!」という最高の笑顔が見られるはずですよ。
タンデムシートが痛い原因と快適なツーリング装備の選び方

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パッセンジャーがバイクを嫌いになる最大の理由は、ズバリ「お尻の痛み」と「恐怖心」です。どんなに絶景が待っているツーリングでも、移動中の苦痛が勝ってしまえば、それは悪い思い出にしかなりません。特に、普段バイクに乗り慣れていない奥様やパートナーにとって、シートの座り心地や走行中の風圧は想像以上のストレスになります。
ここでは、そもそもタンデムとは何かという基本知識から、同乗者を絶対に疲れさせないための具体的な「神アイテム」選び、そして心の距離を縮めるためのコミュニケーション術まで、快適なタンデムライフの基盤となる知識を徹底的に深掘りしていきます。私が実際に妻を乗せて試行錯誤してたどり着いた「正解」も交えてお伝えしますね。
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そもそもタンデムとは?語源や自転車との違い
普段、私たちは当たり前のように「タンデムツーリング」や「タンデムシート」という言葉を使っていますが、その本来の意味や由来について深く考えたことはありますか? 実はこの「タンデム(Tandem)」という言葉、もともとは「座席の配置」を意味する言葉ではなかったんです。
語源を辿ると、ラテン語の「tandem」に行き着きます。これは「ついに(finally)」や「時間の長さ(at length)」を意味する副詞でした。では、なぜそれが「二人乗り」や「縦列」を意味するようになったのでしょうか。18世紀のイギリスにおける「言葉遊び」がそのきっかけだと言われています。
当時、2頭の馬を前後に縦に長く繋いだ馬車が登場した際、人々はその「長さ(length)」に着目し、ラテン語で時間を意味する「at length(tandem)」を、空間的な配置(lengthwise)の意味としてしゃれめかして呼ぶようになったのです。つまり、本来は時間的な概念だったものが、ユーモアを経て空間的な配置を示す言葉へと変化したわけですね。この豆知識、休憩中のカフェで「へぇ〜!」と言わせる雑談ネタとして使えそうじゃありませんか?
さて、現代の日本において「タンデム」という言葉が使われるシーンは主に2つあります。「バイクの二人乗り」と「タンデム自転車」です。この2つは、法律上の扱いが全く異なるので注意が必要です。
| 項目 | バイクのタンデム | タンデム自転車 |
|---|---|---|
| 定義 | 運転席後部に同乗者用座席(ピリオンシート)を備えた自動二輪車での二人乗り。 | 複数のサドルとペダル装置を縦列に備え、複数人が同時に動力を供給できる自転車。 |
| 法的区分 | 自動二輪車(排気量や免許歴による制限あり) | 軽車両(「普通自転車」には該当しない) |
| 公道走行 | 条件を満たせば全国の一般道・高速道路(一部除く)で可能。 | かつては制限されていたが、2023年7月の東京都解禁をもって全国で走行可能となった。 |
| 通行場所 | 車道 | 原則として車道(「自転車を除く」の一方通行逆走などは不可の場合が多い) |
特に注目したいのが「タンデム自転車」です。以前は長野県などの観光地や一部の地域でしか公道走行が認められていませんでしたが、視覚障害者の方の移動支援やパラサイクリングの普及、そして観光資源としての活用を目的に規制緩和が進み、ついに日本全国どこでも走れるようになりました。
ただし、タンデム自転車は全長が長いため、道路交通法上の「普通自転車」の枠には収まりません。そのため、歩道の徐行通行が認められる例外規定などが適用されないケースが大半です。「自転車だから歩道でもいいでしょ」という感覚で乗ると違反になる可能性が高いので、ここはライダーとしても正しい知識を持っておきたいところですね。
お尻が痛い問題を解決するクッション等の対策グッズ

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「バイクの後ろって、正直もう乗りたくないかも……」
もし奥様からこう言われてしまったら、その最大の原因は十中八九「お尻の痛み」です。ライダーである私たちは、ハンドルを握り、ステップを踏ん張り、体重移動を繰り返しているため、お尻への負担が分散されます。しかし、パッセンジャーは違います。基本的には「座っているだけ」の状態が続くため、路面からの突き上げやエンジンの微振動がお尻の一点に集中し続けるのです。
特に最近のバイク、例えばストリートファイター系やスーパースポーツ系は、デザインを優先してテールカウルを小さく跳ね上げているため、タンデムシートが「薄く」「硬く」「小さい」傾向にあります。私のMT-09もまさにそのタイプで、ノーマルのままでは30分もすればお尻が悲鳴を上げ始めます。これを「我慢しろ」というのは、あまりにも酷というものです。
そこで、パッセンジャーをもてなすために絶対に導入したいのが、高性能な「シートクッション」です。座布団一枚で世界が変わると言っても過言ではありません。市場にはいくつかのタイプがありますが、それぞれの特徴を見ていきましょう。
1. ゲル埋め込みタイプ(例:EFFEX ゲルザブ)
医療用具やレースシーンでも使われる衝撃吸収材「エクスジェル」などを内蔵したタイプです。厚さはそれほどありませんが、底突き感を防ぎ、お尻にかかる圧力を分散してくれます。見た目もスリムでバイクのデザインを崩しにくいため、つけっぱなしにしても違和感が少ないのがメリットです。とりあえずこれを選んでおけば間違いありません。
2. エアクッションタイプ(例:AIRHAWK)
浮き輪のように空気を入れて膨らませるタイプです。複数の空気の部屋(セル)が繋がっており、座ると空気が移動してお尻の形に完全にフィットします。クッション性能としては最強クラスで、まるで雲の上に座っているような感覚を得られます。ただし、厚みが出るためシート高が上がり、ライダーが使う場合は足つきが悪くなる可能性がありますが、タンデムシート用ならそのデメリットはほぼ関係ありません。
3. 3Dメッシュタイプ(例:コミネ 3Dメッシュシートカバー)
立体的なメッシュ構造を持つカバーです。クッション性も多少ありますが、真価を発揮するのは「通気性」です。夏場のツーリングでは、お尻が蒸れるのも不快感の大きな原因になります。風が通り抜けるメッシュカバーは、汗によるベタつきを防ぎ、爽快感を維持してくれます。価格も手頃なので、夏限定で装着するのも賢い選択です。
- 痛み対策を最優先するなら:エアクッションタイプ(見た目は少しゴツくなるが効果は絶大)
- 見た目と効果のバランスなら:ゲルタイプ(スマートに装着でき、痛みも大幅軽減)
- 夏の蒸れ対策なら:メッシュタイプ(またはゲルタイプとの併用)
数千円から一万円程度の投資で、「また乗りたい」と言ってもらえる確率がグンと上がるなら、安い投資だと思いませんか? パッセンジャーの笑顔は、プライスレスですよ。
パッセンジャーの疲労を劇的に減らすバックレストの活用

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お尻の痛みと並んで、パッセンジャーを心身ともに消耗させるのが「落下の恐怖」と「姿勢維持の疲れ」です。バイクは加速するたびにG(重力加速度)がかかり、体は後ろへ持っていかれます。ライダーはハンドルを握っていますが、パッセンジャーには支えがありません。常に腹筋に力を入れ、グラブバーを握りしめて耐えなければならないのです。
この過酷な状況を一発で解決するアイテム、それが「バックレスト(背もたれ)」です。「シーシーバー」とも呼ばれますね。これがあるだけで、タンデムシートは「しがみつく場所」から「リラックスできる特等席」へと進化します。
バックレストの効果は、単に寄りかかれるだけではありません。背中に「壁」があるという安心感が、パッセンジャーの精神的な余裕を生むのです。「加速しても落ちない」と分かっていれば、余計な力が抜け、景色を楽しむ余裕が生まれます。実際にバックレストを装着した途端、後ろで居眠りを始めるパッセンジャーもいるほどです(それはそれで危険なので注意が必要ですが、それほど安心できるということです)。
- トップケース(リアボックス)という一石二鳥の選択肢
「ネイキッドバイクに背もたれをつけるのはデザイン的にちょっと……」と抵抗がある方もいるかもしれません。そんな方におすすめなのが、リアキャリアに装着する「トップケース(リアボックス)」です。GIVIやSHADなどの主要メーカーからは、ボックスの前面(パッセンジャーの背中側)に貼り付ける「バックレストパッド」がオプションで販売されています。これなら、ヘルメットや手荷物を収納できる利便性を手に入れつつ、パッセンジャーにはしっかりとした背もたれを提供できます。奥様のお買い物ツーリングでも荷物が積めるようになり、一石二鳥どころか一石三鳥のメリットがありますよ。
バックレストを選ぶ際は、できるだけパッド部分が大きく、位置が高いものを選ぶと安定感が増します。腰の低い位置しか支えないタイプだと、加速時に上半身が「エビ反り」になってしまい、かえって腰を痛める原因になることもあるので注意してください。
また、バックレストはタンデムをしていない時にも役立ちます。キャンプツーリングなどで大きなシートバッグを積載する際、バックレストが支柱(ステー)の役割を果たし、荷崩れを防止してくれるのです。家族サービスもできて、ソロキャンプの利便性も上がる。導入しない手はありませんね。
密接距離がもたらす心理的な変化とコミュニケーション
バイクのタンデム走行には、車や電車での移動にはない、非常に特殊な心理効果があることをご存知でしょうか。それは、物理的な身体接触(タッチング)と、環境の共有が生み出す「親密性の向上」です。
文化人類学者のエドワード・ホールが提唱した「対人距離(パーソナルスペース)」の理論によれば、相手の体に容易に触れることができる0〜45cmの距離は「密接距離(Intimate Distance)」と呼ばれ、家族や恋人など、ごく親しい関係にのみ許される領域です。タンデム走行中、ライダーとパッセンジャーはこの密接距離の中に長時間身を置くことになります。
さらに、二人は同じ振動を感じ、同じ風を受け、同じコーナーの傾きを共有します。本田技研工業が過去に行った調査やプロモーションでも、タンデムは「二人の心の距離を縮める」効果があると示唆されています。吊り橋効果にも似たドキドキ感と、運命共同体のような一体感が、普段の生活では味わえない絆を深めてくれるのです。
しかし、この効果は「諸刃の剣」でもあります。もしライダーの運転が荒く、パッセンジャーに恐怖を与えてしまったらどうなるでしょうか。密接距離での不快な体験は、強烈な拒絶反応を生みます。「怖い」「乱暴」という印象がダイレクトに伝わり、心の距離は一気に離れてしまうでしょう。
つまり、タンデムにおけるライダーの運転は、単なる操縦ではなく、相手への「思いやり」そのものなのです。紳士的な運転で安心感を与えることができれば、奥様やパートナーからの信頼度は爆上がり間違いなしですよ。
ツーリング中の会話をクリアにするインカムの必要性

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かつて、タンデム中のコミュニケーションといえば、信号待ちでシールドを開けて大声で叫ぶか、背中を叩く回数で合図を決める(1回でトイレ、2回でコンビニ、など)といったアナログな方法が主流でした。それはそれで風情がありましたが、意思疎通がうまくいかずにイライラすることも少なくありませんでした。
しかし現在は、「バイク用インカム」という素晴らしい文明の利器が普及しています。これを使わない手はありません。インカムがあれば、走行中に普通のトーンで会話ができます。「見て、左側の海がすごく綺麗だよ」「ちょっと寒くなってきたから、次のPAで休憩しようか」「お昼は何が食べたい?」といった何気ない会話ができるだけで、ツーリングの楽しさは劇的に向上します。
特に重要なのが、パッセンジャーの不安を取り除ける点です。カーブが続く道で「次は少し右に曲がるよ」と予告したり、「あと10分くらいで到着するからね」と伝えたりすることで、後ろに乗っている人は心の準備ができ、安心して身を任せることができます。
- 音楽共有(ミュージックシェア)機能:多くのインカムには、一台のスマホの音楽を二人で同時に聴ける機能がついています。お気に入りのプレイリストをBGMに、二人だけのドライブデート空間を演出できます。
- ナビ音声の共有:「あと何キロで曲がる」といったナビ音声も共有できるので、パッセンジャーも「ちゃんと道順通りに進んでいるんだな」と安心できます。
最近では、Amazonなどで中華製の安価なモデル(2台セットで1万円以下など)も多く販売されており、性能も十分実用的です。高価なハイエンドモデルでなくても構いません。まずは導入して、「走りながら話せる」感動を体験してみてください。
休憩のタイミングと同乗者へのメンタルケア
ライダーであるあなたは、運転の楽しさや適度な緊張感でアドレナリンが出ているため、時間の経過を忘れがちです。しかし、後ろに乗っているパッセンジャーは違います。風圧に耐え、慣れない姿勢で体を支え、視界も限られているため、ライダーの倍以上の速度で疲労が蓄積していくと考えてください。
基本的なルールとして、「休憩は1時間に1回」を厳守しましょう。たとえパッセンジャーが「まだ大丈夫」と言っても、強制的に休憩を入れるくらいのリーダーシップが必要です。トイレに行きたいと言い出せない場合もありますし、降りて体を伸ばすだけで血行が良くなり、疲労回復につながります。
また、走行中のメンタルケアも重要です。特に高速道路など単調な道が続くと、パッセンジャーは強烈な眠気に襲われることがあります(これを「スリープ・イン・タンデム」と呼ぶこともあります)。後ろでヘルメットがコツンコツンと背中に当たる回数が増えたり、グラブバーを掴む力が弱まったりしたら、それは危険信号です。そのまま走り続けると落下の危険性があります。
眠気を感じたら即休憩!
パッセンジャーが眠そうにしている気配を感じたら、迷わず最寄りのパーキングエリアや安全な路肩(緊急時)に停車してください。カフェインを摂取したり、少し仮眠を取ったりして、完全に目が覚めるまでは再出発してはいけません。無理なスケジュールは事故の元です。
休憩中は、飲み物を買って渡しながら「寒くない?」「怖かったところはない?」と優しく声をかけてあげてください。この「気遣われている実感」こそが、パッセンジャーにとって何よりの安心材料となり、「またこの人と走りたい」という信頼につながるのです。
タンデムシートの同乗者が怖いと感じない運転のコツと法律

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ここまでは装備やメンタル面の心構えについてお話ししてきましたが、ここからはより実践的な「運転技術」と、絶対に知っておかなければならない「法律」のパートに入ります。実は、タンデムツーリングにおいて転倒リスクが最も高いのは、走行中ではなく「止まっている時」や「動き出す瞬間」なんです。立ちゴケをして奥様を怪我させてしまったら、もう二度とバイクには乗ってもらえなくなるでしょう。
そうならないための具体的な乗り降りの手順や、プロでも意識しているスムーズな運転操作、そして意外と知られていない高速道路の二人乗り規制や首都高の禁止区間について、ライダーとして責任を持って確認しておきましょう。
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最も危険な乗り降りを安全に行うための手順と合図

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タンデムツーリングで最も緊張する瞬間、そして最も「立ちゴケ」が発生しやすい瞬間をご存知でしょうか。それはカーブを曲がっている時ではなく、出発前と到着後の「乗り降り」のタイミングです。パッセンジャーがステップに片足をかけ、全体重を預けて跨ろうとした瞬間、テコの原理でバイクには強烈な横方向の力が加わります。
ライダーが油断していると、あっという間にバランスを崩し、愛車と共に二人とも地面に倒れ込む……という悲劇が起こります。これを防ぐためには、阿吽の呼吸や感覚に頼るのではなく、明確な「手順(ルーティン)」と「合図」を確立しておくことが鉄則です。
私が推奨する、絶対にコケないための乗車手順(プロトコル)を紹介します。これを奥様やお子さんと共有し、練習してみてください。
| フェーズ | ライダーのアクション(準備と固定) | パッセンジャーのアクション(確認と動作) |
|---|---|---|
| 1. 準備 | 両足で地面をしっかり踏ん張り、フロントブレーキを強く握る。サイドスタンドは出したままにする。 | ヘルメット、グローブを着用し、バイクの左側に立つ。「乗るよ」と声をかける。 |
| 2. 合図 | 体勢が整い、心の準備ができたら「いいよ(どうぞ)」と明確に返事をする。 | ライダーからの返事があるまでは、絶対にステップに足をかけない。 |
| 3. 乗車 | 衝撃に備えてハンドルを抑え込み、車体を垂直に保つよう踏ん張る。 | 左足をステップに乗せ、左手でライダーの左肩を、右手でグラブバーやトップケースを掴み、スムーズに右足を回して跨る。 |
| 4. 着座 | パッセンジャーがシートに座り、足がステップに乗ったのを確認してから、サイドスタンドを払う。 | 座ったらすぐにお尻の位置を調整し、両足をステップに乗せて「乗ったよ」と伝える。 |
最大のポイントは、「サイドスタンドを出したまま乗車してもらう」ことです。多くの教習所では「スタンドを払ってから跨る」と教わるかもしれませんが、タンデム時は例外です。サイドスタンドが出ていれば、万が一左側にバランスを崩してもスタンドが支えとなり、最悪の事態(転倒)を防げます。また、ライダーにとっても「左側には倒れない」という安心感があるため、右側の踏ん張りに集中できます。
降りる時も全く同じです。停車したら、まずライダーがサイドスタンドを出し、車体を安定させてから「降りていいよ」と声をかけます。この合図があるまでは、パッセンジャーは絶対に動いてはいけません。この一連の流れを「儀式」として徹底することで、立ちゴケのリスクは限りなくゼロに近づきます。
ガックンとならないシフトチェンジとブレーキング技術
信号待ちで停車するたびに、後ろから「コツン!」とヘルメットがぶつかる音がする。いわゆる「ヘルメットごっつん」現象ですが、これはパッセンジャーからの無言のメッセージです。「あなたの運転、下手で酔うんだけど」と。
この現象は、減速時に発生するG(慣性力)によってパッセンジャーの上半身が前方に投げ出されることで起こります。ライダーはハンドルで体を支えられますが、パッセンジャーには支えがないため、急激なGの変化に耐えられません。これを防ぎ、同乗者を「お姫様(王子様)」のように運ぶための技術が、以下の2点です。
1. リアブレーキ主体の「沈み込む」ブレーキング
通常のソロ走行ではフロントブレーキが制動の主役ですが、タンデム時は意識をガラリと変えてください。フロントブレーキを強くかけると、フロントフォークが沈み込む「ノーズダイブ」が発生し、車体がつんのめるような挙動になります。これではパッセンジャーは前に飛ばされそうになります。
タンデム時は後輪に荷重が乗っているため、リアブレーキの効きが良くなっています。制動の初期から中期にかけてリアブレーキを積極的に使い、車体全体を沈み込ませるように減速しましょう。フロントはあくまで補助、あるいは停止直前の微調整に使うイメージです。これだけで、驚くほどマイルドな停止が可能になります。
2. 丁寧なシフトチェンジとブリッピング
シフトアップ時の加速Gの抜けや、シフトダウン時の急激なエンジンブレーキも、パッセンジャーを不快にさせる要因です。シフトアップ時は、クラッチ操作を普段より丁寧に、半クラッチの時間をほんの少し長く取るイメージで繋ぐと「ガックン」という衝撃を消せます。また、減速時のシフトダウンでは、アクセルをあおって回転数を合わせる「ブリッピング」を行い、エンジンブレーキの衝撃を和らげることが重要です。
もしブリッピングが苦手なら、無理にシフトダウンせず、高いギアのままブレーキだけで十分に減速し、停止寸前にカチャカチャと1速まで落とす方法でも構いません。とにかく「Gの変化をなめらかにする」こと。コップに入った水をこぼさないように運ぶイメージで運転してみてください。
後ろの人はどこを掴む?ニーグリップと姿勢の基本
「後ろに乗っている時は、どこを掴めばいいの?」
これはタンデム初心者のパッセンジャーから必ず受ける質問です。教習所では「グラブバー(タンデムバー)またはライダーの腰」と教わりますが、実際の走行シーンに応じて使い分けるのが最も安全で疲れにくい方法です。具体的な使い分けをレクチャーしてあげましょう。
- 通常走行時・クルージング時:基本は「グラブバー(またはアシストグリップ)」です。車体に固定されたバーを握ることで、体勢が安定し、ライダーの動きに左右されずに済みます。
- 加速時・高速道路の合流時:「ライダーの腰(ウエスト)」に手を回すか、ジャケットの裾を掴んでもらいます。加速Gで後ろに持っていかれるのを防ぐため、ライダーと一体化するのが一番です。ただし、肩を強く掴むのはNG。ライダーの操作を妨げてしまいます。
- ブレーキング・減速時:再び「グラブバー」を強く握るか、または片手をタンクに突っ張る(スポーツバイクの場合)方法もありますが、基本はグラブバーで体を支え、ライダーに覆いかぶさらないように耐えてもらいます。
そして、手以上に重要なのが「下半身」です。ライダー同様、パッセンジャーにも「ニーグリップ」が必要です。とは言ってもタンクはないので、ライダーの腰骨や太もものあたりを、パッセンジャーの太もも(内腿)で軽く挟み込むようにします。
この「太ももホールド」があるだけで、加減速時の体のズレが劇的に減ります。さらに、ステップをしっかりと踏ん張り、足の裏全体で体重を支えること。手だけで体を支えようとするとすぐに腕がパンパンになりますが、下半身を使えば長距離でも疲れ知らずです。
小さなお子さんを乗せる場合は、手が届かない、力が弱いといった問題があるため、ライダーの腰に装着する持ち手付きの「タンデムベルト」を使用することを強くおすすめします。命綱のような安心感が得られますよ。
一般道と高速道路で異なる二人乗りの法的条件
ここからは法律の話です。「免許を持っているから誰でもすぐに二人乗りOK」ではありません。日本の道路交通法では、運転者の未熟さによる事故を防ぐため、免許取得後の「経験期間」による厳しい制限が設けられています。これを知らずに乗せてしまうと、無免許運転に近い重いペナルティを受けることになります。
1. 一般道での二人乗り条件
まず一般道(下道)ですが、以下の条件を満たす必要があります。
- 排気量:50ccを超えるバイクであること(原付一種は不可、原付二種以上ならOK)。
- 免許歴:大型二輪免許または普通二輪免許を取得してから「通算1年以上」が経過していること。
ここで注意したいのが「通算」の意味です。例えば、普通二輪免許を取って1年後に大型二輪免許を取った場合、その日からすぐに大型バイクで二人乗りが可能です(普通二輪の期間がカウントされるため)。しかし、免許取り消しなどで再取得した場合は、また1年待つ必要があります。
2. 高速道路での二人乗り条件(2005年解禁)
高速道路でのタンデムは、一般道よりもさらに条件が厳しくなります。
- 年齢制限:運転者が20歳以上であること。
- 免許歴:大型二輪免許または普通二輪免許を取得してから「通算3年以上」が経過していること。
「20歳以上」かつ「3年以上」。この両方を満たす必要があります。例えば、16歳で免許を取って19歳になった時点では、免許歴は3年ありますが年齢が20歳未満なのでNGです。逆に、30歳で免許を取ったばかりの人は、年齢はクリアしていますが経験が足りないのでNGです。
これらは安全のための最低ラインです。「法律でOKだから」といって、納車直後の慣れないバイクでいきなり高速道路のタンデムをするのはおすすめしません。まずはソロで車両の特性を完全に把握してから、大切な人を乗せるようにしましょう。
首都高などの特定エリアにある通行禁止区間の罠

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「条件もクリアしたし、これでどこへでも行ける!」と思ったあなた、ちょっと待ってください。実は、高速道路の二人乗り条件(20歳以上・3年以上)を満たしていても、「そもそもオートバイの二人乗りが禁止されている区間」が存在することをご存知でしょうか。
その代表格が、東京都心を走る「首都高速道路(首都高)」の主要エリアです。首都高はご存知の通り、右側からの合流や分流、急カーブの連続、路肩の欠如など、都市内高速特有の複雑で過酷な道路構造をしています。そのため、安全上の理由から以下の区間では自動二輪車の二人乗りが法的に禁止されています。
主な二人乗り禁止区間(首都高)
- 都心環状線(C1):全域で禁止。
- 都心エリアへの通過ルート:1号上野線、9号深川線の一部、11号台場線(レインボーブリッジ含む)の一部など。
- 危険なジャンクション周辺:箱崎JCT、辰巳JCTなどの複雑な合流部。
特に注意が必要なのは、ナビ通りに走っていて知らずに禁止区間に進入してしまうケースです。例えば、湾岸線などは二人乗りOKですが、そこから都心方面へ向かおうとしてC1に入ってしまうと、その時点で違反となります。禁止区間の入り口には必ず「自動二輪車の二人乗り禁止」の標識がありますが、走行中に見落とす可能性も高いです。
対策としては、事前に首都高の公式サイトにある「二人乗り通行禁止区間マップ」を確認し、禁止区間を通らないルートを計画するか、都心部は潔く一般道を利用することです。「知らなかった」では済まされませんし、何よりあの狭い首都高でタンデム事故を起こせば、命に関わる重大な事態になりかねません。
違反した場合の点数や反則金のリスク管理
最後に、もしこれらのルール(期間要件や禁止区間)を破ってタンデム走行をしてしまった場合、どのようなペナルティが待っているのかを直視しておきましょう。この違反は「大型自動二輪車等乗車方法違反」という名称で処理されます。
- 違反点数:2点
- 反則金:12,000円(二輪車の場合)
「たった12,000円か」と思いましたか? しかし、本当のリスクはお金ではありません。最大のリスクは、「違反状態で事故を起こした時の保険適用」の問題です。
一般的に、対人賠償(相手への補償)や対物賠償は、運転者の重大な過失があっても被害者救済の観点から支払われることが多いですが、自身の怪我やバイクの修理費(車両保険)、そして何より同乗者に対する補償(搭乗者傷害保険や人身傷害保険)については、保険会社によって判断が分かれる可能性があります。約款に「法令違反の状態での事故は免責(支払わない)」といった条項が含まれている場合、同乗者の治療費が満額支払われないリスクがあるのです。
愛する家族を危険に晒し、怪我をさせ、さらに治療費の補償も受けられない。そんな最悪のシナリオを避けるためにも、コンプライアンス(法令遵守)はライダーとしての最低限の責任です。ルールを守ってこそ、堂々と楽しめる「大人の趣味」だということを忘れないでください。
総括:タンデムシートで家族との絆を深めるために
ここまで、タンデムシートの快適装備から運転技術、法律に至るまで、幅広く解説してきました。タンデムツーリングは、ライダー一人の技術だけで成立するものではありません。パッセンジャーへの深い「思いやり」と、お互いの「信頼関係」があって初めて、素晴らしい体験になります。最初は近所のカフェまで、次は少し遠くの道の駅まで。焦らず少しずつ距離を延ばしながら、二人だけのリズムを作っていってください。
- タンデムの語源は「縦列」。自転車とは法的な扱いが違うので注意
- お尻の痛み対策には「ゲルザブ」や「エアクッション」が効果絶大
- 「バックレスト」はパッセンジャーの恐怖心を消し、疲労を半減させる重要装備
- 会話ができる「インカム」は、楽しさを共有し不安を取り除く必須アイテム
- 休憩は「1時間に1回」。こまめな声掛けで眠気や疲れを確認しよう
- 乗り降り時は「サイドスタンド」を出したまま行うのが立ちゴケ防止の鉄則
- 「ヘルメットごっつん」防止には、リアブレーキ主体の制動とブリッピングが有効
- パッセンジャーも「ニーグリップ」を行い、手だけでなく下半身で体を安定させる
- 一般道での二人乗りは「免許取得後1年以上」、高速道路は「20歳以上かつ3年以上」が必要
- 首都高のC1などには「二人乗り禁止区間」があるため、事前のルート確認が不可欠
- 違反すると点数2点、反則金12,000円に加え、保険適用にリスクが生じる可能性がある
- 子供を乗せる場合は、足がステップに届くことが最低条件。タンデムベルトも活用しよう
- 無理なすり抜けや急加速は厳禁。大切な人を乗せている時は「世界一優しい運転」を
- タンデムは密接距離でのコミュニケーション。紳士的な振る舞いが家庭円満の鍵となる
最後に
今回は、タンデムシートでの二人乗りを「痛い」「怖い」から「楽しい」「快適」に変えるための具体的な装備や運転技術、そして必須の法律知識について解説しました。バックレストやゲルザブといったアイテムの準備、そしてライダー自身の優しい運転操作があれば、バイクの後ろは「苦行の場所」から「特等席」へと変わります。
しっかりとルールを守り、パッセンジャーへの気遣いを忘れなければ、タンデムツーリングは家族やパートナーとの絆を深める最高の体験になるはずです。



